獣医学部・大学院獣医学研究科の宮本良助教は、本年10月11日に開催された日本獣医臨床病理学会において、犬の扁平上皮癌に対する新たな治療戦略に関する研究発表で奨励賞を受賞しました。
「PLK1とCDK1/2の二重阻害はTP53に早期終止コドン変異を持つ犬扁平上皮癌細胞株の増殖を選択的に抑制する」と題した本研究成果は、犬の扁平上皮癌に対する新たな治療法の開発につながるものです。

研究概要
犬の扁平上皮癌は、口腔や皮膚などに発生する悪性腫瘍であり、周囲の組織に浸潤する性質が強く、化学療法に対する感受性が低いことが知られています。そのため、外科的切除や放射線治療が困難な症例に対して、新たな治療法の開発が求められています。
TP53は、細胞の異常な増殖を抑制する重要ながん抑制遺伝子であり、その変異はさまざまながんの発生や進行に関与しています。しかし、犬の扁平上皮癌におけるTP53遺伝子変異の役割や、治療標的としての可能性については十分に解明されていません。これまで研究が進んでいなかった問題は、TP53遺伝子変異を持つ犬の扁平上皮癌細胞株が同定されていなかったことでした。
本研究では、TP53遺伝子に早期終止コドン変異を持つ犬の扁平上皮癌由来の株化細胞を同定することに成功し、これらの株化細胞を用いて、がんの細胞分裂の制御に関わるPLK1およびCDK1/2を標的とした阻害剤の増殖抑制効果を検討しました。その結果、PLK1とCDK1/2の二重阻害は、TP53変異を持つ犬の扁平上皮癌株化細胞に選択的に強く増殖が抑制されることが明らかとなりました。
なお、本研究成果は国際学術誌BMC Veterinary Researchにも採択・掲載されています。
研究成果の意義
本研究は、犬の扁平上皮癌においてTP53遺伝子変異により増強された細胞増殖シグナルに依存するメカニズムが存在することを示し、これを抑制する方法を提示しました。これらの成果は、従来の治療法では十分な効果が得られない犬の扁平上皮癌に対して、腫瘍の遺伝子変異に応じた新たな治療戦略の開発につながることが期待されます。今後は、二重阻害による抗腫瘍効果の作用機序や安全性についてさらに検証を進め、臨床応用に向けた研究を発展させていく予定です。

解説:通常、TP53は細胞周期を抑制するように働くが、同定したTP53変異を持つ犬の扁平上皮癌株化細胞では、抑制機構が解除されており、その結果PLK1とCDK1/2が互いに活性化させるPositive feedback loopが強力に活性化を起こす。これにより細胞周期の進行が促進しがん細胞が著しく増殖する。この機構をPLK1阻害剤volasertibとCDK1/2阻害剤BMS-265246により同時に阻害することで、細胞死が誘導される。